VDOTを計算して練習ペースを整える|無理なく記録を伸ばす走り方

記録を伸ばしたい時、まず迷うのが「どのペースで走れば良いか」です。そこで役に立つのがVDOTという指標で、最近のレース結果から体力水準を数値化し、練習ペースに翻訳できます。
この記事ではVDOT 計算の考え方と使い方をやさしく整理し、日々のジョグから閾値走、インターバルまでの設定に落としていきます。読み終えるころには、今日から無理なく試せる具体的なペースが手元に残ります。

VDOT 計算の基本と使いどころ

VDOTは、最近のベストに近いレース結果から現在の走力を推定し、そこから練習ゾーンのペースを決める考え方です。心拍計や主観だけに頼らず、外的要因の影響を平均化しやすいのが利点です。まずは「なぜ使うのか」「どこまで信じるのか」を押さえると、毎週の練習が落ち着きます。

VDOTとは何かを一歩やわらかく理解する

VDOTは酸素摂取能力と走パフォーマンスの関係をもとにした指標で、難しい計測器なしにレース結果を手がかりに現在地を知るものです。VO2maxの厳密測定とは別物ですが、実用面では練習ペース決定の共通言語になります。数値そのものに一喜一憂せず、練習の強度帯を安定させるための座標軸として扱うと腑に落ちます。

どの距離の記録を使うと扱いやすいか

5kmや10kmはペース変動の影響が少なく、天候や補給の要素も小さいためVDOT算出に向いています。ハーフやフルの結果も使えますが、補給やペース配分の巧拙でぶれやすい面があります。最近の2〜8週間で最も「うまく走れた」記録を選び、極端な追い風や激坂コースは注意書きを添えて扱うのが安全です。

手動計算と電卓・表ツールの使い分け

手計算は概念の理解に向き、オンライン電卓や早見表は日常運用に便利です。練習前は電卓でE/T/I/Rの目安を出し、走りながらは体感で微調整。終わったらログを基に再評価します。仕組み化しておくと、忙しい平日でも迷いなく練習に入れます。

VDOTがもたらす安心感と限界

数値があると、やり過ぎを防ぎ、足りない時は上げる根拠になります。ただし暑熱や睡眠不足など日常要因の影響は無視できません。VDOTは羅針盤であり速度制限ではない、と心得ると使い心地がよくなります。

他指標(心拍・主観・パワー)との併用

心拍は日内変動があり、主観は経験に左右され、パワーは機器前提です。VDOTはこれらの「物差し」をつなぐ橋渡しとして働きます。Eは会話可能Tは会話が途切れる手前など、体感と照合しつつ数週ごとに記録で再キャリブレーションするとズレが蓄積しにくくなります。

注意:タイムが噛み合わない日は、VDOTを上げ下げするより練習意図を守ることを優先します。翌日以降の回復を崩すほどの粘りは、結局トレンドを悪化させます。

  1. 最新レース結果を1つ選ぶ(追い風や激坂は備考に)
  2. オンライン電卓でVDOTとゾーン別ペースを取得
  3. 週の主目的(持久・閾値・スピード)に配分
  4. 当日の体感で±3〜5秒調整
  5. 練習後にログを見て次週へ反映

「数値が決まると迷いが減って、開始が早くなった。結果として週の質がそろい、疲れ過ぎも減った。」

レース結果からVDOTを算出して練習に落とす

実際の算出は難しくありません。使う距離を決め、タイムを入力し、出力されたVDOTからE/T/I/Rの各ペースを拾います。ここでは換算の考え方と、コースや天候の影響をどう扱うかをまとめます。

5km・10km・ハーフ・フルの扱いの違い

5kmはスピード寄り、10kmは持久とスピードの中間で安定、ハーフは持久寄り、フルは補給や筋持久の影響が大きい特性です。初めて使うときは10kmまたは5kmを起点にし、ハーフやフルの結果は参考値として扱うと過大評価や過小評価を避けられます。複数記録がある場合は一番安定して走れたものを採用します。

コース・風・気温の補正の考え方

往復コースでの追い風区間や、気温25℃以上の暑熱はタイムを悪化させます。緩やかな下りや長い信号待ちは逆に記録を良く見せます。備考に条件を書き添え、次の記録で上振れ下振れを平均化しましょう。単発の例外に反応してVDOTを大きく動かすより、2〜3本の平均で落ち着かせるのが実用的です。

年齢・性差と最近のトレンドをどう見るか

年齢や性差は長期の傾向として影響しますが、日々の練習ペース決めでは個人差が大きく、最近8週間の記録の方が有用です。過去ベストに引っ張られ過ぎず、いまの生活リズムと回復力で無理なく積める水準に設定することで、再現性の高い成長カーブを描けます。

メリットと留意点の二面から把握する

視点 ポイント
メリット 記録起点で客観化しやすく、練習の強度がそろう
留意点 暑熱・起伏・体調でぶれるため体感で微調整が必須

よくある質問の小まとめ

Q. 直近の記録がない場合は? A. Tテスト(20分全力)や5kmTTの暫定結果で設定し、最初のレースで更新します。

Q. 練習で出た区間PBは使える? A. ウォームアップや追い風の影響が大きく、原則は大会結果優先です。

Q. 複数距離で数値がずれる? A. 安定して走れた記録を主とし、他は参考にして次回で補正します。

  • 記録は2〜8週間内のものを採用する
  • 極端な風・暑さ・下りは備考に残す
  • 複数結果は安定性で選ぶ
  • 初回は10kmか5kmを起点にする
  • 設定後は体感で±3〜5秒調整
  • 次の記録で再評価して更新
  • 週ごとの主目的を崩さない

トレーニングゾーンとペースの決め方

VDOTから得られるゾーンは主にE(イージー)T(閾値)I(インターバル)R(リピート)です。ここでは各ゾーンのねらいと設定幅、週内での配分の作り方を示します。

Eジョグの幅と退屈さの乗り越え方

Eは有酸素の土台作りで、会話が続く範囲に収めます。同じペースで単調に感じたら、路面やコースの変化を入れて刺激を散らすのが有効です。坂混じりの周回や芝の柔らかい路面は筋持久の色付けにもなり、翌日の質練に悪影響が出にくいのが利点です。

T走の設定と持続時間の目安

Tは乳酸の蓄積と除去の釣り合いを狙う領域で、ギリギリ会話が難しい手前に置きます。20分連続、あるいは5〜10分の反復が扱いやすく、合計20〜40分が一般的な範囲です。風や気温で辛さが増したら、距離は保ちつつペースを数秒落として負荷を一定にします。

IとRの質と量のコントロール

Iは3〜5分程度でVO2maxに近づける強度、Rはフォームとスピードの洗練を狙う短い反復です。Iは休息も同程度Rは完全回復寄りにして動きを崩さないことが重要です。翌日のEで脚をほぐし、週の前半に集約すると疲労の滞留を防げます。

  • 週の主目的は1つ(持久/閾値/スピード)
  • Eは全体の6〜8割の時間配分
  • Tは合計20〜40分を目安に調整
  • Iは3〜5分×4〜6本を基準に前後
  • Rは200〜400m×6〜10本で動きを整える
  • 翌日はEで巡航し回復を促す
  • 疲労が残る時は本数を削る
  • 暑熱時はT/Iの比率を下げる

週あたりの代表的な配分例(目安):E 65〜75%、T 10〜20%、I 5〜10%、R 5〜10%。トラック期やマラソン期で比率は変動します。

20分T走での主観的強度は「きつい手前」。最後に余裕1割が残ると狙いどおりにハマりやすいです。

Rは一本ごとのフォームの質を評価し、乱れたら即終了の勇気を持つと故障予防に寄与します。

  1. レース期:IとRをやや多めに配置
  2. マラソン基礎期:EとTで土台を厚く
  3. 暑熱期:Tは距離維持でペース緩め
  4. 仕事繁忙期:I/Rを削り睡眠を優先
  5. 故障明け:Eの範囲で週をつなぐ
  6. ピーク前:T→Iの順で尖らせる
  7. レース週:量を半減し動きを温存
  8. 移行週:E主体で疲労を抜く

用語を短くおさらい

E:イージー。会話可能の巡航域。

T:閾値。持続可能な高めの巡航。

I:インターバル。3〜5分で呼吸を追い込む。

R:リピート。短距離でフォームを磨く。

テーパリング:レース前の量を落とす準備期。

VDOTと目標タイムのつなげ方

現在地(VDOT)と目標タイムの橋渡しには、段階的な更新と期分けが有効です。ここでは代表的な目安と、ずれた場合の調整、移行の考え方を示します。

サブ4・サブ3.5・サブ3への道筋を描く

目安として、サブ4はVDOT概ね38前後、サブ3.5は43前後、サブ3は50前後が参照になります。個人差やコース特性で上下するため、10kmやハーフの記録も合わせて複眼で判断しましょう。直線的に伸ばすより、8〜12週間の小さな山を重ねていく設計が現実的です。

練習で苦しくなる時の優先順位

Tが重い日は距離を優先してペースを下げ、Iは本数を減らしてフォームを守る。Rは質が落ちたら打ち切る。Eは時間で管理し、疲労が濃い日は短縮します。目的を守る選択が、長い目で見ると最短になります。

期分けと移行:基礎→仕上げ→調整

基礎期はE多めでTを薄く、仕上げ期はT/Iで尖らせ、レース前は量を落としてR中心に動きのキレを残します。各期の境目にミニレースを挟むと、VDOT再評価とメンタルの切り替えがスムーズです。

VDOT目安 10km予測 ハーフ予測 Eペース目安 Tペース目安
38 45:30± 1:41:00± 6:10〜6:30/km 4:45/km前後
43 41:00± 1:31:30± 5:35〜5:55/km 4:20/km前後
46 38:30± 1:26:30± 5:15〜5:35/km 4:05/km前後
50 36:00± 1:20:30± 4:55〜5:15/km 3:50/km前後
53 34:30± 1:17:00± 4:40〜5:00/km 3:40/km前後
56 33:00± 1:13:30± 4:25〜4:45/km 3:30/km前後

よくある失敗と回避策

失敗1:良い日だけでVDOTを上げる → 回避:2〜3本の平均で更新。

失敗2:暑熱下でTを死守 → 回避:距離優先で数秒落とす。

失敗3:I/Rでフォーム崩れ放置 → 回避:乱れたら即終了し翌日Eで整える。

ベンチマークの早見:Eは会話可能、Tは20分が等速で保てる、Iは3分で限界手前、Rはフォームが揺らがない範囲。いずれも翌日に過度の残疲労が出ないのが適合のサインです。

体感と疲労管理で微調整する

どれほど良い数値でも、当日の身体は毎回同じではありません。睡眠、仕事、気温、起伏で感じ方は揺れます。体感の言語化と簡単なルールで、VDOTの枠内で安全に前進しましょう。

日常コンディションを見える化する

起床時の脈、睡眠時間、筋肉痛、気分を3段階でメモします。Eの長さやTの設定をこの指標で微調整し、無理をしない日を作ると翌週の質が上がります。短時間でもルーチン化すれば、判断がぶれにくくなります。

暑熱・寒冷・起伏への合わせ方

暑い日はT/Iのペースを落とし、距離や本数を守ります。寒冷や強風の日はフォーム重視でRに置き換えるのも手。起伏は心拍が跳ねやすいので、主観強度に合わせて上下させれば目的負荷を保てます。

レース前のテーパリングの考え方

2週間前から量を20〜40%落とし、直前はRで動きを軽くします。睡眠と補給のリズムを整え、不安解消のための走り過ぎを避けるのが鍵です。直近の練習は伸びより整えを優先します。

  • 睡眠が短い日はEを短縮しT/Iは回避
  • 暑熱時はペースではなく感覚で調整
  • 風が強い日はRまたはEに置換
  • 登坂は姿勢優先で足首を守る
  • 違和感が出たら即時終了し冷却
  • 翌朝の脈で反応を確認する
  • 週の主目的を先に消化する
  • テーパリング中は量を守る
  • 補給とシューズをレース用に合わせる

注意:違和感を押して行った練習は、得られる利益より失う回復が大きくなりがちです。迷ったら短めに切り上げ、翌日Eで感触を探るほうが総合点は高くなります。

失敗と回避の短ケース

疲労残りでTが崩れた → 本数維持で数秒落とす。次週に持ち越さない。

Iの最後でフォームが乱れた → その場で終了しドリルへ。質を守る。

Eが速くなりがち → ペース表示を消し、会話可能かで制御する。

ツール活用と記録の仕組み化

継続のカギは迷いを減らす仕組みです。電卓・早見表・スプレッドシートを役割分担させ、練習前後の判断を自動化します。モチベーションの波にも対応しやすくなります。

オンライン電卓と早見表の使い分け

電卓はその日の設定取得に、早見表は週の設計や比較に向きます。スマホにブックマークして、走り出す前に30秒で確認。過去の値と並べて見ると、季節や疲労の影響も読み取りやすくなります。

スプレッドシートでの管理テンプレ

列に日付・内容・距離・時間・主観強度・睡眠・脈を並べ、行に日々の練習を記録します。週末に主観強度の平均と合計時間をチェックし、翌週のT/Iの量を微調整します。色でE/T/I/Rを塗り分けると俯瞰性が上がります。

波を前提にした続け方

忙しい週はE主体でつなぎ、余裕がある週にT/Iを乗せる。VDOTは変えずに比率だけを動かせば、一貫性が保てます。完璧より継続を重視する設計が、気持ちの揺れに効きます。

よくある質問の補足

Q. ペースが合わない日が続く? A. 体調要因を先に点検し、問題なければVDOTを1段階下げて様子見します。

Q. 新しいシューズで速く感じる? A. 2〜3回の平均で判断し、単発の上振れでは更新しません。

Q. 心拍が高い? A. 暑熱や寝不足が多く、ペースより主観で合わせる日を作ります。

小さな統計で振り返る:週の合計時間、睡眠平均、主観強度の平均を並べるだけでも、翌週の配分判断が安定します。数字は厳密でなくてよく、再現性が目的です。

  1. 練習前:電卓でE/T/I/Rの設定を確認
  2. 練習中:体感に合わせて±3〜5秒調整
  3. 練習後:ログへ記録し一言メモ
  4. 週末:比率と疲労を俯瞰して翌週を設計
  5. 月末:ミニレースで再評価し更新

まとめ

VDOTはレース結果をもとに練習ペースへ翻訳するための共通言語です。まずは扱いやすい距離の記録を選び、電卓でE/T/I/Rの目安を取り出し、当日の体感で微調整します。
数値は羅針盤、速度制限ではありません。暑熱や忙しさの波には比率で応じ、2〜3本の記録で平均化しながら小さな山を重ねましょう。仕組み化して迷いを減らすほど、週の質がそろって無理なく記録が伸びていきます。