マラソンの生理と向き合う準備|症状別に安心して走って完走する

生理の時期に走ると、普段なら気にならない小さな違和感が大きく感じられたり、タイムや気持ちの波に影響が出たりします。そんな時は「走るか休むか」の二択ではなく、周期の特徴に合わせて強度や補給、装備を少しだけ整えるだけでも楽になります。
この記事では、症状別の走り方、栄養と水分の工夫、レース当日の準備、薬や医療の情報の扱い方、気持ちとの付き合い方までをまとめ、安心して練習と大会に臨むための考え方を紹介します。

マラソンの生理周期で変わる体調を知る

まずは「自分の周期のリズム」を大づかみに理解することが出発点です。月経期、卵胞期、排卵期、黄体期はそれぞれ体温やむくみ、集中のしやすさなどが少しずつ異なります。すべての人に同じ傾向が当てはまるわけではありませんが、自分にだけの揺れ方を知ると、練習計画と疲労管理がぐっと立てやすくなります。

注意周期による変化は個人差が大きいです。ここでの傾向は目安であり、痛みが強い・出血量が極端・周期が不規則などの時は、無理せず医療機関に相談して評価を受けると安心です。

周期ごとのざっくり傾向を押さえる

月経期はエネルギー感が落ちやすく、体温も低めになりがちです。やさしいジョグやドリルに留め、フォームをほどく感覚で終えると回復が進みます。卵胞期は少しずつ調子が上がり、スピード刺激の受け入れやすさが増す人がいます。排卵期は個人差がもっとも強く、違和感がある日は強度を落とすと安全です。黄体期後半はむくみや眠気、PMSの影響が出やすく、テンポ走を短めの反復に切るなど微調整が役立ちます。

体温と発汗の変化に気づく

黄体期はわずかに体温が高く、発汗もしやすい傾向が見られます。給水間隔を短くし、ナトリウムを含むドリンクを少量ずつこまめにとるだけで走り心地が変わります。逆に月経期は冷えを感じやすい人が多いので、走り出しを長めのウォームアップにあて、ウインドシェルを着脱しながら体感温度を整えましょう。

強度の置き方をなめらかにする

「予定メニューを完遂」ではなく、「その日の主目的を満たす」が基本です。VO2刺激の日でも、体調が重いなら本数を減らしてフォーム優先に切り替えます。ジョグ日は距離ではなく時間を基準にすると、無理なく積み上がります。

症状の記録で再現性を高める

日付、周期の位置、睡眠、痛みやむくみ、体感強度、走行内容を簡単にメモします。3か月ほど続けると、勝ちパターンと避けたい組み合わせが見えてきます。うまくいった補給や装備も一緒に残すと、次のレース準備が楽になります。

PMSとPMDDを区別して考える

気分の落ち込みや集中のしにくさが強く、生活に支障が出る場合はPMDDの可能性もあります。練習メニューの調整だけでなく、専門家に相談して支援を受けると、走ること自体が楽になります。周囲と共有する一言メモ(例:「黄体期後半はペース目標なし」)も有効です。

  1. 直近3か月の周期カレンダーを用意する
  2. 各期に合わせた練習の「幅」を決める(距離/本数/ペース)
  3. 給水と補給の試行メモを残す
  4. 違和感が出た日の共通点を探す
  5. レース週の動線をテンプレ化する

ミニ統計(目安)

  • 黄体期は発汗増を感じる人が一定数いるため、給水間隔は通常より5〜10分短めに設定する目安が有効です。
  • 月経期の初日は強度を落とすと自覚疲労が低く収まりやすいという報告が多く見られます。
  • 記録を続けた人の多くが、3か月前後で「自分の安全域」を言語化できるようになります。

症状別の走り方とセルフケアを具体化する

「痛いから走らない」だけでなく、痛みのタイプやだるさの質によって、取るべき手当は変わります。ここでは頻度の高い症状を取り上げ、今日の練習をどう変えるか、どのような補給や装備が助けになるかを整理します。

腹痛や骨盤周りの重さに合わせる

腹部〜骨盤の重さが強い日は、ストライドを無理に広げず、接地を静かにするフォームに切り替えます。アップを普段より長めに取り、骨盤周囲のダイナミックストレッチを行うと可動が出やすくなります。冷えを感じる場合は腹部の保温を優先し、ペースではなく時間で終える判断が安全です。

頭痛・めまい・だるさへの配慮

頭痛やふらつきがある日は屋内トレッドミルや周回コースに変更し、離脱しやすい環境を選ぶと安心です。カフェインは効く人もいますが、空腹状態での摂取は気持ち悪さにつながることがあります。薄めのスポーツドリンクをこまめに取り、短いレストを挟むインターバルに置き換えると負担が軽くなります。

気分の波と集中のしにくさ

目標ペースの数字を見ると気持ちが沈む日は、RPE(主観的運動強度)で管理します。仲間と会話できる程度を維持し、終盤に60秒だけフォーム集中の「小さなスパート」を入れると満足感が残ります。達成感の源を「完遂」ではなく「工夫」に置くと、次の練習に良いリズムがつながります。

対処 期待できる良い点 注意点
ペース走→ビルドアップに変更 体調に合わせて自然に上げやすい 前半の抑えすぎで距離不足に注意
距離→時間管理へ置換 無理な引き延ばしを防げる 時間内の強度を落としすぎない
屋外→トレミへ移行 気分が悪くても離脱しやすい 風の抵抗が無く発汗が増えやすい

よくある質問

  • 痛み止めは使ってもよい? 使用は個人差が大きく、空腹や脱水との併用は負担になることがあります。自己判断で頼りすぎず、必要時は医療者に相談すると安心です。
  • 休む目安は? 出血量が多い、立っていられない痛み、めまいや吐き気が強い時は練習を中止し、休養と補給を優先します。
  • 代替メニューは? エリプティカルやバイクで心拍だけ保つ、上半身の補強に置き換えるなど、疲労を溜めない選択が有効です。
  • アップはいつもより長めにして体温を上げる
  • ペースよりリズムを優先し、呼吸を整える
  • 距離ではなく時間で切り上げる
  • 薄めの電解質ドリンクをこまめに飲む
  • 腹部や腰回りの保温と着脱を調整する
  • 帰宅後は温シャワーと軽い補食を取る
  • 翌日の予定を少し軽くして回復を確保する

栄養と鉄のマネジメントで走りを支える

長く走る力の土台は、エネルギーの充足鉄の確保です。月経期は鉄の需要や消耗の体感が増しやすく、黄体期は体水分の揺れで重さを感じることがあります。ここでは日々の食事と補食、給水の工夫を整理します。

鉄とフェリチンの考え方

鉄は酸素運搬に関わるミネラルで、不足すると息切れや持久力の低下につながります。フェリチンは体内の鉄の貯蔵量の目安で、疲れやすさが続く場合は医療機関で評価し、必要に応じて食事やサプリ、治療の方針を相談します。赤身肉、レバー、あさり、豆、ほうれん草などを主食と合わせて取り入れ、ビタミンCを一緒に摂ると吸収の助けになります。

エネルギー不足とRED-Sを避ける

摂取エネルギーが不足した状態が続くと、月経不順や疲労蓄積、けがのリスクが上がります。練習量に対して食事が足りているかを定期的に見直し、特に朝食と練習前後の補食を欠かさないようにすると安定します。体重や体脂肪を急に落とす計画は、パフォーマンスの土台を揺らしやすいので避けるのが無難です。

水分と塩分の組み立て

発汗が増える時期は、ナトリウムを含む飲料を少量ずつこまめに取るのが楽です。汗で塩の白い跡が目立つ人は、長めの練習で薄めの電解質ドリンクや塩タブレットを試すと、後半のだるさを防げることがあります。冷たいものの一気飲みはお腹の違和感を招くので、体感に合わせて温度と量を調整しましょう。

タイミング 主食 たんぱく質 鉄の多い食材 +ビタミンC
朝食 ごはん/パン 卵/ヨーグルト ほうれん草 果物/野菜
練習前30–60分 バナナ/おにぎり
練習後30分 おにぎり 牛乳/豆乳 あさりの味噌汁 トマト/柑橘
夕食 ごはん/麺 赤身肉/豆 レバー少量 ブロッコリー

よくある失敗

  • 走行直後に何も食べずにシャワーへ行き、補食のタイミングを逃す
  • 鉄サプリを自己判断で長期に続け、胃の不快感や便秘に悩む
  • 減量を優先し、練習量に対して明らかな食事不足になる

ミニ用語集

  • フェリチン:体内に蓄えられた鉄の量の目安。血液検査で評価します。
  • RED-S:相対的エネルギー不足。月経や骨、パフォーマンスに影響します。
  • RPE:主観的運動強度。体感で強度を調整する指標です。
  • 電解質:ナトリウムやカリウムなど。発汗で失われやすい成分です。
  • ヘム鉄/非ヘム鉄:肉や魚に多い鉄/植物性食品に多い鉄の種類です。

レース当日の準備と装備をテンプレ化する

当日を楽にするコツは、動線の固定化装備の事前検証です。トイレの場所や荷物預けの順番、補給・給水の位置、スタート整列の時間など、迷う要素を減らせば心身の負担が軽くなります。

生理用品とウェアの選び方

タンポン、月経カップ、吸水ショーツなどは、必ず練習で試してから本番に使います。擦れやにおい、交換のしやすさは人によって違うため、自分のコースとペースで確かめるのが近道です。短い周回で装着→走行→付け直しの手順を試すと、当日の不安が減ります。

スタート前の動線を固める

会場到着から整列までの時間割を紙に書き、トイレ・荷物預け・アップ・整列の順を決めます。会場マップにトイレ位置を書き込み、混雑の少ない導線を一つ用意しておくと安心です。アップは長めに歩いて体温を上げ、短い流しを2〜3本で切り上げます。

走行中とフィニッシュ後

給水所では焦らず、少量を複数回に分けて飲みます。万一の漏れや擦れに備え、ワセリンや小さなポケットティッシュを携帯すると落ち着いて対処できます。フィニッシュ後は体が冷えやすいので、保温と補食を先に行い、着替えの順を決めておくとスムーズです。

  1. 会場マップにトイレと荷物預けをマークする
  2. 装備と生理用品は前週までに実走テストを済ませる
  3. スタート整列の締切時刻から逆算して行動する
  4. 給水所の位置で摂取計画を決める
  5. フィニッシュ後の保温と補食を先に行う
  6. 帰路の移動時間を見込み、温冷差に備える
  7. 記録と感想を当日中にメモする

大会では事前に装備テストをしておくと、不安の源が一気に減ります。私は周回コースで装着→走行→付け直しを2回試し、当日は動線をカードに書いて携帯しました。迷いが少ないと走りに集中できます。

  • アップは10〜20分歩き+流し2〜3本が目安
  • 給水は「少量×回数」を基本にする
  • フィニッシュ後は保温→補食→着替えの順
  • トイレ位置は2か所以上を把握する
  • ワセリンとティッシュを小袋で携帯する

ホルモン療法や低用量ピルの選択肢を理解する

月経痛や出血量の多さで走ること自体が難しい人には、低用量ピルや他の治療が有効な場合があります。自己判断ではなく医療者と相談し、目的や副作用、ドーピング規程の確認を含めて方針を決めると安心です。

期待できるメリット

周期や出血量のコントロール、痛みの軽減などが期待できます。レース日程に合わせて周期を調整する方法もありますが、開始直後は体の反応が安定しない場合があるため、重要レースの直前に始めるのではなく余裕を持って試すのが無難です。

注意したいポイント

吐き気、頭痛、気分の変化などの副作用が出ることがあり、既往歴や喫煙などのリスクによっては適さない場合があります。また、サプリや薬との相互作用もあるため、普段使っているものを含めて医療者に伝えると安全です。

始める前に決めておくこと

目的(痛みの軽減、周期調整など)をはっきりさせ、レース計画と練習のピーク期に合わせてスケジュールを引きます。初期の反応を評価するため、最初の2〜3か月は練習日誌に症状と走行内容を詳しく残しておくと判断がしやすくなります。

  • 医療機関で適応とリスクを確認する
  • 重要レース直前の開始は避ける
  • 副作用や気分の変化を日誌に記録する
  • サプリや薬の併用は事前に共有する
  • ドーピング規程の確認を行う
  • 不安が続く場合は方針を見直す
  • 継続の是非を定期的に見直す
注意医薬品の使用は個別性が大きく、ここでの説明は一般的な情報です。具体の可否は必ず医療者と相談して決めましょう。

  1. 目的を明確化する(痛み軽減/周期調整など)
  2. 開始の時期を決め、実走テストの期間を確保する
  3. 副作用の有無と走力への影響を記録する
  4. 重要レース前に再評価して継続可否を判断する
  5. 必要に応じて他の選択肢も検討する

装備・衛生・肌トラブルを先回りで防ぐ

小さな不快感の積み重ねが走り心地を大きく左右します。吸湿速乾のボトムス、擦れやすい箇所へのワセリン、肌に合う洗浄と保湿など、触感の整備は効果が出やすい領域です。

ウェアとフィット感

骨盤周りを締め付けすぎないボトムスを選び、縫い目やタグの位置を確認します。ライナーや吸水ショーツは、汗をかいた状態での肌当たりも含めて実走でチェックします。擦れやすい内もも、腰周り、アンダーバストにはワセリンを薄く塗っておくと安心です。

衛生とスキンケア

大会前後は汗と摩擦が増えるため、刺激の少ないボディソープで洗い、ぬるめのシャワーで流します。保湿剤はさらっとしたジェル系を薄く広げ、衣服と肌が擦れる箇所は特に丁寧に。香りの強い製品は気持ち悪さの引き金になる人もいるため、事前に相性を確認しましょう。

持ち物と段取り

替えのボトムス、袋、ティッシュ、小分けのワセリンは重宝します。レースではスタート前のトイレの混雑を見越し、早めに並ぶか、混みにくい場所を事前にチェックしておきます。手荷物の詰め方は「上から取り出す順」にして、迷いを減らしましょう。

  • 内もも・腰骨周辺の擦れ重点ケア
  • 吸水ショーツは実走で肌当たりを確認
  • ワセリンは薄く広げてベタつきを防ぐ
  • 香りの強い製品は相性を先に確認
  • トイレ位置と混雑時間を把握
  • 小分けポーチで動線を簡素化
  • 帰宅後はぬるめのシャワーで洗浄
注意肌トラブルが長引く、痛みや出血が強い、膣内の違和感が続くなどの時は、自己処置に固執せず受診して評価を受けましょう。

  1. 擦れやすい箇所を把握してマークする
  2. 装備を実走で検証し、肌当たりを記録
  3. 当日の持ち物リストをテンプレ化する
  4. トイレ動線と時間の余裕を確保する
  5. 帰宅後の洗浄と保湿をルーティン化する

記録とコミュニケーションで不安を小さくする

調子の良し悪しは必ず波を持ちます。波を「見える化」し、周囲と共有できるメモを持つと、練習やレースの調整がしやすくなります。数字に縛られすぎず、うまくいった工夫の記録を集めることが自信につながります。

何をどのくらい書くか

日付、周期の位置、睡眠、痛みスコア(0–10)、走行時間・強度、補給、装備、気分を一言で。週に一度、良かった点を3つ書くだけでも前向きな視点が育ちます。アプリでも紙でも、続けやすい方法を選びましょう。

共有の仕方を決めておく

コーチや練習仲間とは、「黄体期後半はタイム目標なし」「月経初日は距離半分」など、ルールの一文で共有します。言い出しにくさを減らすため、事前にテンプレを作っておくと負担が小さくなります。

メンタルの波への対処

低調な日は、「完遂」ではなく「工夫」の達成感を拾います。気持ちが沈むときは、呼吸と接地の音に注意を向ける、自然の多いコースを選ぶ、好きな音楽のテンポでウォーク&ランにするなど、体験の質を整える工夫が助けになります。

  • 週1回の「良かった3つ」を積み上げる
  • 痛みスコアと実施強度を並べて記録
  • うまくいった補給・装備を保存
  • 共有用テンプレ文を用意する
  • コースと時間帯の相性を探す

ミニ統計(記録の効果)

  • 3か月の継続で「避けたい組み合わせ」が明確化し、練習中断の回数が減る傾向があります。
  • 共有テンプレの導入で、練習日程の再調整が短時間で済むようになったという報告が多く見られます。
  • 良かった点の記録は、低調期の自己効力感を支える材料になります。
目的 記録の要素
体調の見える化 周期位置/痛み/睡眠/走行内容
補給の最適化 摂取タイミング/量/体感
装備の検証 肌当たり/擦れ/保温
共有の効率化 ルールの一文/次の提案

まとめ

生理の時期に走ることは、体調と気持ちの揺れに合わせて工夫すれば、十分に続けられます。周期の特徴を知り、症状別にメニューを微調整し、鉄や水分の補給を意識して、装備と動線を前もって試すだけでも不安は小さくなります。
薬や医療の選択肢は自己判断に頼らず専門家と相談し、記録と共有で再現性を高めましょう。大切なのは「完璧にこなす」より「体にやさしい工夫を積み重ねる」ことです。今日の一歩が、次のレースでの安心へつながります。