- 要点1: 登坂は主観的強度を一定に保ちピッチを維持、ペースは追わない
- 要点2: 下りは重心真下着地と接地時間短縮でブレーキを減らす
- 要点3: 登坂直前・直後に補給をずらし、消化ストレスを避ける
- 要点4: 5km刻みで獲得標高を把握し、区間目標を現実化
- 要点5: 冬型の低温・風対策を装備で先回り
コース高低差の全体像と要注意区間の早見理解
全体の難所は「中盤の上り」と「終盤の下り」です。スタートから10kmにかけては細かな波状、10〜20kmで明確な登坂が入り、20〜30kmは脚を作る時間帯、30km以降はペースを落とさずに下りの勢いを使い切る局面となります。
ここで大切なのは、平均ペースではなく区間ごとの仕事量を揃えることです。体感強度(RPE)や心拍の上限を決め、上りではペースを許容して下げ、下りではフォームの効率で稼ぐ発想に切り替えます。
標高推移の核心ポイント
高低差は「累積の負債」と捉えると設計が容易です。登坂での心拍上昇は数分遅れて現れるため、手前から1〜2%の余裕を確保し、ピークを越えた直後は呼吸が整う範囲でのみ回収します。ここで無理な加速はグリコーゲン過消費につながるため避けましょう。
スタート〜10kmのアップダウン
序盤は集団と雰囲気に流されやすい区間です。細かな起伏に対し、ピッチを一定に保つことで脚のダメージを抑えます。腕振りは肘を後方に引き、接地位置を体の真下に近づけます。
10〜20kmでの中盤の山場
明確な登坂が現れます。ここでは「加速しない勇気」。呼吸が乱れる一歩手前の強度に固定し、歩幅を1〜2cm刻みで狭め、上体はわずかに前傾。脹らはぎではなく股関節主導で推進します。
20〜30kmの脚づくりと温存
登りの後で脚に微細損傷が蓄積する帯。ここでの焦りは禁物です。ピッチを落とさず、接地時間を短く保ち、補給と給水で代謝を安定させます。
30km以降の下り活用と失速回避
下りの惰性に任せた加速はブレーキ動作を増やし、太腿前面にダメージを溜めます。骨盤を立て、着地は母趾球寄りから全足底で受け、上体は路面と平行感覚。「静かな着地」を合言葉にしましょう。
区間 | 登下降の傾向 | メモ |
---|---|---|
0–5km | 緩い波状 | ピッチ固定・様子見 |
5–10km | 小刻みな上り下り | 呼吸を乱さない |
10–15km | 登り基調 | 歩幅微調整 |
15–20km | 登りの山場 | 等努力配分を徹底 |
20–25km | 小休止の平坦 | 補給・姿勢リセット |
25–30km | 緩やか | 脚温存フェーズ |
30–35km | 下り活用 | 接地を静かに |
35–42.195km | 下り+平坦 | フォーム維持で押し切る |
- 各5kmの目安心拍またはRPEを事前に設定する
- 登り区間ではピッチ維持・歩幅微縮小を徹底する
- ピーク直後の回収は呼吸が整う範囲のみで行う
- 平坦帯でフォーム・姿勢のチェックポイントを設ける
- 下りでは接地時間を短く、骨盤を立てる
- 風向き・気温に応じてタイム期待値を微修正
- レース前の睡眠・朝食で血糖の波を抑制
- 足指・シューズ内の遊びを最小化する
- 補給は固形とジェルを組み合わせ消化負担を分散
- 給水所の手前で呼吸・姿勢を整える
結論:上りで追わず、下りで無理せず、全体で等努力を維持することが最速の近道です。
最大上り・最大下りの特徴と区間別攻略
最大上りは「時間が長い」ことが本質で、最大下りは「制動が増える」ことが本質です。どちらもスピードではなくフォーム効率で乗り切ります。上りでは前傾を作り、足首でなく股関節で地面を押すイメージ。下りでは膝を前に送り、足を体の前に投げ出さない意識がカギになります。
勾配が急になる登坂の走り方
急坂はストライドを詰め、腕振りでピッチを導きます。視線は5〜8m先、顎を引いて気道を確保。呼吸は2拍吸って2拍吐くのリズムで落ち着かせます。
ロング下りで脚を削らないコツ
下りは接地衝撃と制動で大腿四頭筋に負担が集中します。接地時間を短くするほど衝撃ピークを分散できるため、ピッチを上げ、骨盤の真下で足を置きます。腕はやや広めに振ってバランスを補助。
信号・カーブ・橋での微地形対応
微地形はリズムを崩しがちです。カーブでは外傾を防ぎ、橋の上では風の横流れに注意。微登坂の入口で一瞬だけピッチを上げ、慣性を切らさないのがコツです。
局面 | 失速の原因 | 対策キーワード |
---|---|---|
急登 | 歩幅固定で乳酸急増 | 歩幅微縮・前傾 |
長い下り | 制動増・筋ダメージ | 接地短縮・骨盤直立 |
強風 | 上体後傾・呼吸乱れ | 体幹固定・腕振り |
連続波状 | ピッチ変動 | ピッチ一定・上下動抑制 |
カーブ多発 | ライン取りのロス | 最短ライン・姿勢軸 |
- 急登は手前20〜30秒で歩幅を詰める
- 登坂ピーク手前で肩の力を抜き呼吸を整える
- 下り開始直後はピッチでスピードを作る
- 直線では最短ライン、カーブはイン寄りを選択
- 橋・高台は上体をやや前に保ち風に備える
- 脚攣り予防に電解質を定時補給
- シューレースは左右均等テンション
- ソックスは薄手でシワを作らない
- コーナー進入で呼吸を整える合図を用意
- 上体リラックスで腕振りの振幅だけ増やす
ポイント:速度ではなく軸で勝つ。軸が保てれば、勾配の負債は最小になります。
ペース配分と補給の最適化(高低差前提)
タイムは「平均ペースの管理」ではなく「区間ごとの強度の整合」で決まります。登りの30〜60秒の遅れは、平坦と下りでの効率回収で十分取り戻せます。心拍計があれば上限ゾーンを設定し、なければRPE基準で2段階のゆとりを確保。補給は登坂直前に入れるのではなく、登坂の数分前かピークの後にずらすのが賢明です。
イーブンではなく等努力配分
等努力配分は「一定の苦しさ」を保つ考え方です。登坂では意図的にラップを落とし、下りではピッチで回収。これにより代謝の乱高下を抑え、終盤の失速を防げます。
登坂前後の補給タイミング
消化・吸収には時間がかかるため、登坂直前のジェル一気飲みは横隔膜の動きを阻害することがあります。登る2〜3km前、またはピーク直後に摂るとリスクが減ります。
ネガティブスプリットの現実解
高低差のあるコースでのネガティブは、ラストの「追い上げ」ではなく「崩れないこと」で成立します。終盤の下りを安全に使い切れば、結果として前半より後半が速くなることが多いです。
局面 | 推奨指標 | 運用ノート |
---|---|---|
登坂 | RPE 6/10 | ラップ低下を許容 |
平坦 | RPE 5/10 | フォーム確認タイム |
下り | RPE 5–6/10 | ピッチ先導・制動最小 |
補給 | 20–30分毎 | 登坂直前は避ける |
給水 | エイド毎 | 一口目は口潤し |
- 心拍またはRPEの上限を事前に決める
- 5km毎に「姿勢・呼吸・接地」のチェックを入れる
- 補給は登坂の2〜3km手前またはピーク後に
- 下りはピッチでスピード、ストライドは控えめ
- 終盤の平坦でフォーム動画を撮るつもりで整える
- ジェルは2種類以上で味覚疲労を回避
- カフェインは中盤〜終盤で一点投入
- 塩分タブは汗量で可変
- 冷風時は温かい飲料を少量で
- 胃が揺れるときは呼吸を整えて歩幅縮小
合言葉:速さよりも安定。等努力で最後まで落ちない走りを。
下り耐性とフォーム作り(ダメージ最小化)
下りはタイムを稼ぐ反面、筋損傷の主因にもなります。耐性は「技術×筋力×柔軟性」の総和。技術では接地の位置と時間、筋力では大腿四頭筋と臀筋群、柔軟性では足関節背屈とハムの伸張性が鍵です。週2回の短時間メニューでも積み上げれば大差になります。
接地時間と骨盤角度の整え方
骨盤を立て、みぞおちを前に押し出す意識で上体を作ると、足が体の前に出にくくなり制動が減ります。接地は「静かに速く」。
股関節主導のピッチ管理
下りでストライドを伸ばすと着地衝撃が増えます。ピッチを先導役にし、股関節の屈伸で足を回すと安全にスピードが乗ります。
ふくらはぎ・前脛骨筋の事前強化
下りでは前脛骨筋がつりやすい部位です。つま先上げのドリルや片脚スクワットで補強し、足首のコントロール力を高めます。
要素 | 目的 | 例 |
---|---|---|
技術 | 制動最小化 | 真下着地・骨盤直立 |
筋力 | 衝撃耐性 | 前腿・臀筋エキセントリック |
柔軟 | 可動域確保 | 足関節背屈・ハム伸張 |
神経 | ピッチ制御 | メトロノーム180bpm |
回復 | 損傷修復 | 睡眠・たんぱく・アイシング |
- 週1回、緩い坂で下りフォーム練習
- 片脚スクワットとカーフレイズを各12回×3
- つま先上げドリルで前脛骨筋を活性
- メトロノームでピッチ感覚を養う
- 練習後は前腿を軽くアイシング
- シューズはロッカー形状が合うか確認
- インソールの縦アーチ支持で安定化
- 靴紐の下段は緩め、上段で固定
- ソックスは滑り止め付きも検討
- 下りは視線を遠くに置き体の軸を先行
結局:下りは技術で守り、筋力で支える。両輪が揃えば終盤も崩れません。
事前準備と疑似再現(試走・GPX・トレミ)
本番の高低差を事前に体に刻めるかが成功の分水嶺です。現地試走が難しくても、GPXデータとトレッドミルを組み合わせれば十分再現可能です。週次で1回、勾配付き走を入れて身体に「勾配のリズム」を覚えさせましょう。
コース類似地形での代替練習
自宅近くの周回で「登り3分+平坦3分+下り3分」を1セットにしたリズム走を作れば、コースの波状を模倣できます。
GPXインポートと勾配可視化
地図アプリにGPXを読み込み、標高グラフを見ながら5kmごとの目安ラップとRPEを割り当てます。これが当日の「答え合わせ」になります。
トレッドミル傾斜メニュー
トレミでは傾斜を1〜4%で可変させ、下りはスピードで代用。傾斜走後の平坦は体感的に楽になり、本番の等努力配分に直結します。
手段 | 目的 | 実施例 |
---|---|---|
周回代替 | 波状再現 | 登3分・平3分・下3分×4 |
GPX可視化 | 配分設計 | 5km毎にRPE設定 |
トレミ傾斜 | 登坂強化 | 1–4%変化走 |
坂ドリル | 技術習得 | 静かな接地練 |
動画確認 | フォーム修正 | 正面・側面撮影 |
- 週1回の傾斜走をルーチン化
- GPXで5kmごとの配分表を作る
- 試走不可なら代替周回で波状再現
- トレミで等努力配分を身体化
- 動画で骨盤角度と接地を確認
- 雨天時は室内で代替実施
- 疲労時は傾斜を1%下げる
- フォーム修正は一度に1点のみ
- 練習後の糖質+たんぱく補給を固定化
- 睡眠時間を最優先タスクに
備え:準備は裏切らない。勾配を身体に覚えさせれば当日は楽になります。
当日の装備・寒暖対応とトラブル予防
奈良の初冬は冷え込みと風の影響が出やすいタイミングです。体温と手先の保温を優先し、過剰な汗冷えを避ける装備で臨みます。シューズはロード向け反発モデルでも良いですが、下りでの安定性とフィット感を最優先に選びます。
冬型天候と体温維持
スタート前は薄手ウィンドシェルで待機し、直前に外す。耳や手先の冷え対策としてビーニーと手袋は有効です。
シューズ選択とインソール調整
下りの制動を減らすため、ヒールカウンターの安定性と前足部のロッカー形状をチェック。インソールで縦アーチを軽く支えると着地が安定します。
補給・保水・塩分の携行計画
ジェルは腰ベルトに分散、電解質はタブレットで。給水所手前で呼吸を整え、むせを防ぎます。
カテゴリ | 推奨 | 理由 |
---|---|---|
トップス | 吸汗速乾+ウィンドシェル | 汗冷え防止 |
グローブ | 薄手保温 | 末端冷え対策 |
シューズ | 安定性と反発のバランス | 下り制動を減らす |
インソール | 軽いアーチサポート | 接地安定 |
補給 | ジェル+電解質 | 痙攣予防 |
- スタート待機中は体幹を冷やさない
- レース15分前に最後の給水を小口で
- 靴紐テンションを左右対称に調整
- ジェルの開封タブを事前に起こす
- エイドの入口で進行方向の外側を選ぶ
- ナンバー留めは安全ピンよりマグネットも検討
- 擦れ対策にワセリンを要所へ
- 補給の味を2種類以上用意
- 雨予報は帽子のツバで視界確保
- 寒風時は指先カイロも選択肢
注意:寒さで感覚が鈍るとフォームが崩れます。装備で先に勝っておきましょう。
まとめ
奈良マラソンの高低差は、恐れる対象ではなく設計の前提です。登坂では「等努力配分」でペース低下を許容し、下りでは「静かな真下着地」と「骨盤直立」で制動を最小化。補給は登坂の数分前かピーク直後にずらし、代謝の波を抑えます。
準備段階ではGPXと傾斜走でリズムを身体化し、当日は冬型の冷えと風に備えた装備で臨む。これらを積み上げれば、30km以降も脚を残したまま下りを活かし切る走りが可能です。最後にもう一度、合言葉は「速さより安定、安定が最速」。配分とフォームで、景色を楽しむ余裕をゴールまで持ち込みましょう。