マラソンで吐き気を防ぐ食事と補給ガイド|スタート前の準備からレース中の水分と電解質戦略

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「マラソン 吐き気」で悩むランナーへ。吐き気は脱水や低ナトリウム血症、低血糖、胃腸の血流不足、オーバーペースなど複合要因で起こります。
本記事はレース前の食事と補給、当日の水分・電解質戦略、ペース設計、暑熱対策、危険サインの見極めまで実践的に解説します。

  • 主な原因の見極め方(脱水・低Na・低血糖・胃腸虚血・強度過多)
  • スタート前の食事とカフェイン管理のコツ
  • 水とスポドリ・塩分の比率と摂る量・間隔
  • ジェルの濃度調整と「少量頻回」補給
  • 前半抑え目のペースと暑さ対策の要点
  • 危険サインとやめ時、応急対応の手順

マラソンで吐き気が起こる主な原因

レース中の吐き気は単独の理由で起こることは少なく、脱水・低ナトリウム血症・低血糖・胃腸虚血(消化不良)・オーバーペースや過呼吸などが重なって出現することが多い症状です。

まずは「どの原因が強いか」を推定し、優先順位を付けて介入するのが安全で効率的です。以下では典型的なメカニズムと見分け方、現場で役立つ初期対応のヒントをまとめます。

脱水と体温上昇(熱中症初期)

大量発汗で血漿量が減ると胃腸の血流も低下し、むかつきや食欲低下が出やすくなります。さらに体温が上がると中枢性に吐き気が誘発され、ペース維持が困難になります。舌が乾く、汗が出なくなる、ふくらはぎが頻繁につる、集中力が落ちるといった変化は脱水のサインです。

  • 発汗量が多い日は「少量頻回」の補水を徹底する
  • 首筋・腋窩・頭部の冷却で体温上昇を抑える
  • ペースが崩れたら一旦歩行に切り替え呼吸を整える
観察される変化 推定 初期対応
口渇・濃い尿・脈拍高め 脱水優位 スポドリ少量頻回+日陰休止
悪寒・鳥肌・めまい 熱中症初期 冷却(帽子・かけ水・氷)
胃の重さ・食欲低下 胃腸血流低下 無理な固形補給は避ける

低ナトリウム血症(「水だけ」過剰摂取)

涼しいレースや完走重視でこまめに水だけ飲み続けると、血中ナトリウムが希釈され、頭痛・吐き気・むくみ・集中力低下などにつながります。汗で塩分を失いやすい体質の人や、超長時間の運動でリスクが上がります。

目安:水だけを長時間摂り続けない。スポドリや塩タブレット、塩飴などでナトリウムを補う。

症状 脱水 低ナトリウム
口渇・皮膚の乾燥 強い 弱い〜普通
体重変化 減る 減らない/むしろ増える
むくみ(手指) 少ない 出やすい
吐き気・頭痛 出ることも 出やすい

低血糖(エネルギー不足)

前半のオーバーペースや補給遅れで、脳へのブドウ糖供給が不足すると吐き気やふらつき、冷や汗が起こります。空腹感が消えているのに力が入らない時は要注意です。

  • ジェルは「早め・薄め・こまめ」に。
  • カフェイン使用は後半に温存し、過剰摂取を避ける。
  • 強い空腹感やふらつきが出たら一度立ち止まり少量補給。

消化不良・胃腸虚血(補給の相性)

走行中は血流が筋肉へ優先配分され、胃腸の消化能は落ちます。高濃度ジェルを一気飲み、冷たすぎる飲料、脂肪分や食物繊維の多い固形補給は、レース強度では負担になりがちです。

悪い例
冷えた濃いジェルを一気に飲む→胸やけ・吐き気
良い例
常温の水で薄めつつ5〜10分おきに分割摂取

オーバーペースや呼吸の乱れ

レース序盤の興奮や集団効果で設定より速く入り、換気過多となると、横隔膜が痙攣気味になり吐き気やしゃっくりが出ます。呼吸リズム(2歩吸って2〜3歩吐く)を意識し、余裕のある心拍ゾーンで巡航しましょう。

  • スタート〜5kmは「我慢ゾーン」と認識する
  • 上りは歩幅を詰めてピッチで登る
  • 混雑区間は抜かない・流れに乗る

レース前の食事・時間調整のポイント

前日〜当日の食事戦略は、吐き気の予防に直結します。鍵は「消化に優しく、血糖の安定を保ち、電解質を欠かさない」こと。固さや温度、食べるタイミングまで含めてチューニングしましょう。普段の練習で再現して検証しておくと、本番で迷いません。

前日(T−24〜12時間)の基本

  • 主食は白米・うどん・パンなど消化の良い炭水化物中心に
  • たんぱく質は脂質の少ない鶏むね・白身魚・豆腐を適量
  • 野菜は火を通し、食物繊維はやや控えめに
  • 塩分は控えすぎない(薄味の汁物を活用)

当日朝(T−3〜2時間)

固形物はこの時間帯で済ませ、以降は液体・半固形中心に切り替えます。温かい飲み物は胃の緊張を和らげ、冷えすぎは避けます。

時間 内容 量の目安
T−3:00 おにぎり+味噌汁 炭水化物50〜80g
T−2:30 バナナ or もち+温かいお茶 軽め
T−1:00 ジェル1/2袋+常温の水 分割摂取
T−0:15 うがい+一口の水(乾きを取る) ごく少量

避けたいもの・扱いに注意するもの

  • 脂っこい揚げ物・乳脂肪たっぷりの菓子類
  • 食物繊維が極端に多い未精製穀物
  • 初めて試すサプリ(本番初使用はNG)
  • 強い炭酸飲料・極端に冷たい飲料

カフェインの使い方

覚醒感や集中力を高めますが、胃刺激と利尿で吐き気やトイレリスクも。レース後半(30km以降)に小分けで使い、空腹時の高用量は避けます。「ノンカフェインで巡航→終盤の一押しで投入」が安全策です。

メモ:当日の朝は「常温・やわらかい・薄味」を合言葉に。胃にストレスをかけない選択が最優先。

レース中の水分・電解質補給の基本

吐き気を左右する最大要因のひとつが「量と組み合わせ」と「摂る速度」です。水だけ過多は低ナトリウムのリスク、スポドリだけ過多は濃度負けで胃が重くなる――この二項対立を避けるため、状況に応じたミックスと分割摂取を徹底します。

給水のタイミングと一回量

  • 基本はエイド毎に口を湿らせる程度から開始
  • 喉の乾きや暑さに合わせて一口ずつ回数を増やす
  • 一気飲みは避け、5〜10口に分けて取り込む

水とスポドリの使い分け

「喉の渇き→水でリセット」「エネルギー・電解質補給→スポドリで追う」の順が胃に優しい流れです。ジェル摂取の直後は水で濃度を薄めるのが基本です。

気温 推奨比率(水:スポドリ) 補足
5〜10℃ 2:1 冷え対策を優先、飲み過ぎ注意
11〜20℃ 1:1 標準。ジェル後は水を先に
21〜28℃ 1:2 電解質を意識、かけ水も併用
29℃以上 1:2〜0:1 塩分&冷却最優先、歩行も選択

低ナトリウムを避けるコツ

  • 手のむくみや指輪のきつさを感じたら「水だけ」を中止
  • スポドリが苦手なら塩飴・塩タブレットを組み合わせる
  • 体重がスタートより増えていそうなら飲み過ぎの可能性
徴候 考えられる状態 即時アクション
吐き気+頭痛+むくみ 低ナトリウム傾向 水をやめスポドリ/塩を摂る
吐き気+口渇+皮膚乾燥 脱水傾向 スポドリ少量頻回+冷却
胃のチャポチャポ感 飲み過ぎ・停滞 歩行で揺らさず時間を置く

エイドでは「止まる→2呼吸→少量→飲み込む→再開」のルーティン化で、飲み過ぎとムセを防げます。

エネルギー補給と胃を守る工夫

エネルギーを入れたいのに、入れるほど気持ち悪くなる――吐き気のジレンマを解く鍵は「濃度」「温度」「分割」の3点です。ジェルやグミ、バナナなど形状の違いはあっても、胃での濃度と腸での吸収速度は物理法則に従います。だからこそ“薄めて、こまめに、常温で”。

ジェルの濃度と分割摂取

  • 1袋を一気に飲まず、5〜10分ごとに数口に分ける
  • 直後に水を一口追加し、胃内濃度を下げる
  • 味は2〜3種類を用意し味覚疲労を回避
ジェルの炭水化物量 推奨する併用水量 摂取の目安
20g 50〜80ml 10〜15分で分割
25g 80〜120ml 10分で分割
30g 100〜150ml 5〜10分で分割

半固形・固形の使い分け

気温が高い日は半固形(ジェル・ゼリー)中心、寒い日は小さなパン・ようかんなど「噛んで満足感」を得られる固形も選択肢に。いずれも一口サイズにし、必ず水で追うのが原則です。

  • ようかん:甘味がマイルドで胃に優しい
  • バナナ:繊維が少なく素直に入る(熟度は高め)
  • グミ:噛みすぎは横隔膜の負担、量は控えめ

温度管理と保管

冷えすぎた飲料は胃の動きを止めます。ボトルはポケットの体温で常温化させ、凍らせて持つのは避けましょう。ジェルは外装に小さな切り込みを入れておくと、分割しやすく粘度負けも減ります。

ワンポイント:吐き気が出たら「補給を止める」のではなく「濃度を下げて回数を増やす」へ発想転換。

ペース配分・呼吸法・暑熱対策

同じ体力でも、入るペースと呼吸の整え方、暑さの受け方で吐き気の出方は大きく変わります。体内のストレス総量を下げる運び方を選び、余裕度(主観的運動強度・心拍)を指標に運用しましょう。

前半抑え目のペース設計

  • スタート〜5kmは目標より5〜10秒/km遅く
  • 10〜30kmで均一、30km以降で微増速
  • 心拍の上限は坂・向かい風で一時的に許容しても、区間平均で整える
条件 前半の配分 後半の配分
涼しい・フラット −5秒/km ±0〜+5秒/km
暑い・日差し強い −10〜−15秒/km ±0(吐き気回避優先)
アップダウン多い 心拍一定で走る 下りで取り返さない

呼吸の整え方

腹式で下腹部を膨らませて吸い、ゆっくり長めに吐く。基本は「2歩吸って2〜3歩吐く」。横隔膜の過緊張を防ぎ、迷走神経の働きを整えて吐き気を鎮めます。吐くリズムが短くなると過換気になりやすいので注意。

暑熱対策の実践

  • 白〜淡色の帽子・薄手ウェアで直射を回避
  • 首筋・こめかみ・腋窩へピンポイント冷却
  • エイドでのかけ水はシューズに入らないよう前側から

「今日は暑い」は戦略変更の合図。タイムではなく完走と安全を最優先に、吐き気を出さない走りへ。

危険サインとやめ時・応急対応

吐き気は「止めるべき危険のサイン」を伴うことがあります。無理を重ねると回復が長引き、生命に関わる合併症のリスクも。以下の表と手順を頭に入れておきましょう。迷ったら止まる勇気が、次の挑戦を守ります。

危険サインの早見表

サイン 想定されるリスク 推奨対応
強い頭痛・吐き気・むくみ 低ナトリウム血症 直ちに中止、救護へ
めまい・フラつき・悪寒 熱中症初期/脱水 日陰で休止、冷却・補水
胸痛・圧迫感・息苦しさ 循環器症状 中止し医療評価
意識混濁・痙攣 重篤 救急要請

現場での応急手順

  1. 安全確保:日陰や風のある場所に移動し座る/横になる
  2. 冷却:帽子・首・脇を中心に冷却、衣類を緩める
  3. 補水:常温のスポドリを少量頻回。水だけは避ける
  4. 補給:必要ならジェルを薄めて少量、急がない
  5. 再評価:5〜10分ごとに意識・めまい・吐き気の変化を確認

再開/中止の判断基準

  • 頭痛や意識障害が残る→中止一択
  • 吐き気が軽減し歩ける→歩行で再開し無理はしない
  • 再発する→その日の完走目標は切り替える

レース後のケアと次回への学び

帰宅後は体重・尿色・むくみを記録し、レース中の補給ログ(量・タイミング・種類)と一緒に振り返ります。胃が落ち着くまでは脂っこい食事やアルコールを避け、電解質を含む飲料と消化の良い炭水化物で回復をサポートしましょう。翌日以降も吐き気が続く、頭痛が消えない、むくみが強いなどの変化があれば医療機関で相談を。

チェック:次のレースに向けて「濃度・温度・分割」「前半抑え目」「水とスポドリのミックス」をメモ化。

まとめ

吐き気は「原因を絞る→適切に介入→危険なら中止」の順で対処します。まずは歩きや日陰で体温を下げ、少量のスポドリや水+塩分で補水、ジェルは薄めて口数を増やす。前半は抑え、心拍と体感強度を管理。頭痛・意識混濁・痙攣など重い症状は直ちに中止し救護へ。日頃の練習で補給の種類と間隔を検証しておくことが最大の予防策です。

  • 少量頻回の補水・補給で胃負担を軽減
  • 水だけ大量は避けて電解質を併用
  • 暑熱時は冷却・かけ水・帽子を活用
  • 危険サインが出たら即ストップ